現状では根本的にシェーグレン症候群を治癒させることは出来ません。したがって治療は乾燥症状を軽快させることと疾患の活動性を抑えて進展を防ぐことにあります。
目の乾燥、口の乾燥はひどくなると著しく生活の質(QOL)を障害しますので毎日の点眼、口腔清潔を心がける必要があります。エアコン、飛行機の中、風の強い所、タバコの煙などに注意がいります。
皮膚に対して、石鹸の使用、頻繁に風呂に入ること、特に熱い湯は良くありません。膣の乾燥の原因については、アンケートでは20%の患者さんに性交不快感があり、エストロジェンの内服やエストロジェン入りのクリームなどを使用することが必要となりますので婦人科を受診するのが良いでしょう。規則正しい生活、休養、バランスのとれた食事、適度の運動、ストレスを取り除く等の注意が必要です。
「未来技術の実現予測」(文部科学省科学技術政策研究所、2001年)では、「2021年に自己免疫疾患が完治可能になる」としていますので、この頃には「シェ−グレン症候群の治癒」が期待されます。これは日本の専門家たちの予測で、このような予測を頭に入れて患者さんと医師が
協力し合って忍耐強く病気に対応すること重要でしょう。
1.眼乾燥(ドライアイ)に対する治療
治療法は(1)涙の分泌を促進する、(2)涙の補充、(3)涙の蒸発を防ぐ、(4)涙の排出を低下させる方法がとられます。
(1)涙の分泌を促進する方法としてステロイド薬による抗炎症作用や炎症細胞の浸潤抑制による効果が一部で期待されます。
塩酸セビメリンがヨーロッパでは涙の分泌にも効能が認められていますが、日本では適応が取れていません。
しかし一部の患者さんには効果があります。
(2)涙の補充には人工涙液や種々の点眼薬があります。これらを1日3回以上使用します。
点眼薬には防腐剤が入っていますので、何回も点眼するときは防腐剤による角膜障害が問題になります。
この場合は普通の点眼の後に防腐剤の入らない点眼薬(生理的塩水、ソフトサンティア)で洗い流すか、防腐剤のはいらない使い捨ての点眼薬(ヒアレイン・ミニ)を使う方が良いでしょう。
傷害された角膜上皮の再生促進や角膜炎の治療の目的でヒアルロン酸、コンドロイチン、ビタミンA、フィブロネクチンなどを含んだ点眼薬が使用されます。別の治療として、自己血清を採取してこれを薄めて使用する方法が推奨されています。
血清の中には上皮成長因子、ビタミンなどの様々な物質が入っているからです。
(3)涙の蒸発を防ぐために、眼鏡の枠にビニール製のカバーをつけたモイスチャー・エイド(ドライアイ眼鏡)があります。
(4)涙の排出を低下させるためには、鼻側の上下にある涙の排出口である涙点を閉じる方法があります。
それらは涙点プラグで詰める方法や、手術によって涙点を閉鎖する方法があります。
これらはいずれも患者さんに大変評判のよいものです。眼科医に相談して下さい。
2.口腔乾燥に対する治療
シェーグレン症候群の患者さんは虫歯になりやすいので、口内を清潔に保つことが非常に大切です。
まず、口腔乾燥作用を持つ薬剤を服用しているときはこれを中止することです。
その他(1)唾液の分泌促進、(2)唾液の補充、(3)虫歯の予防や口内の真菌感染予防、(4)口腔内環境を改善することなどです。
(1)唾液分泌の刺戟、促進
・唾液分泌を刺激するものとして:シュガーレスガム、レモン、梅干などがあります。
・唾液分泌を促進するものとして:アネトールトリチオン(フェルビテン)がありますが、効果が不十分で尿の着色、腹鳴などの副作用があります。他にブロムヘキシン(ビソルボン)、漢方薬(人参養栄湯、麦門冬湯)などが用いられて人によって有効です。副腎ステロイド剤も有効であり
症状に合わせて使用されます。
特に、唾液腺腫脹をくり返す時には有効です。昨年より発売された塩酸セビメリン(エポザック、サリグレン)は今までの薬剤に比べて有用性が高く、約60%の患者さんに有効で患者さんの評価もかなり良いものです。副作用として消化器症状や発汗などが患者さんの約30%にあります。
本剤は人により作用、副作用に大きな違いが見られますので、1日1錠から始め、副作用を見ながら1週間ごとに1錠ずつ増量するなどの慎重な服用が望まれます。アメリカ、ヨーロッパでは
塩酸ピロカルピンが発売されていますが、日本では現在治験中です。
(2)唾液の補充はサリベートや2%メチルセルロースが人工唾液として使われます。
サリベートは噴霧式で舌の上だけでなく、舌下、頬粘膜に噴霧した方が口内で長持ちします。
また、冷蔵庫保存で不快な味が消えます。
(3)虫歯の予防や口内の真菌感染、口角炎を予防するものとして、イソジンガーグル、ハチアズレ、オラドール、ニトロフラゾン、抗真菌剤などが用いられます。
歯の管理と治療としてブラッシング、歯垢の除去と管理、虫歯、歯周病対策などがあります。
(4)口腔内環境を改善させるために、食事の改善として乾燥食品、香辛料、アルコール飲料を避けること、禁煙が必要です。口内の痛み、乾燥による咀しゃくと嚥下困難に対しては食物をやわやかくする、刺激のあるものを避ける、乾燥したものは液体に浸して食べる、温度を食べやすい温度にする、などがあります。歯の健康に対してはバラエティーに富んだ食物群をとる、糖分を避ける、甘い間食をとらない(ガムはキシリトールガムにする)などの注意が要ります。
味覚の変化に対しては食物の水分、温度、食物の組み合わせを工夫するなどを考えてください。
全身性の臓器病変のある人は内科などでステロイド薬や免疫抑制薬などを含めて適した治療を受けるべきです。経過については、10〜20年経ても症状に変化のない人が約半数です。残りの約半数には何らかの検査値の異常や全身性の病変が発症する可能性があります。その中には白血球減少、高γグロブリン血症や皮膚の発疹、間質性肺炎、末梢神経症、肝病変、腎病変などがあります。
まれにはリンパ腫を発症する人もあります。
シェーグレン症候群は長期間にわたる慢性疾患です。以下のことが大切だと思います。
病気の正しい理解と心構え
1. 病気の理解(医師、本、患者会で学ぶ)
(1)自己免疫疾患である
(2)慢性に経過する炎症性疾患である
(3)病気の勢いに波がある
(4)医学の進歩は日進月歩で、新しい治療が開発されている
2. 心構え
(1)病気と共存する
(2)生活を積極的にエンジョイする工夫をする
出来ることは何でもやってみる
人と同じことが出来なくても、他の方法で楽しむ工夫をする
(3)同じ病気にかかっているのは自分ひとりではない
(4)わるい方へばかり考えない
日常生活で気をつけること
1. 規則正しい生活
2. 安静と十分な睡眠:過労をさける、昼寝をする
3. 好き嫌いせずにバランスの取れた食事:栄養素、カルシュウム(食後の歯の手入れ)
4. 寒冷をさける:ウイルス感染に注意
5. 外傷、手術などの肉体的ストレスをさける
6. 精神的ストレスをさける
7. 適正体重の維持
8. 適度の運動:入浴、散歩、庭いじり、畑仕事、サイクリングなど
9. 強い日光をさける(日中、山、海、スキー):帽子、長袖シャツ、日焼け止めクリーム
10.長期の予後に関係する疾患を予防する:骨粗しょう症、動脈硬化、高血圧、糖尿病、白内障、結核など
11.薬をキチンと服用する
12.定期的な診察・検査を受ける
13.インチキ療法に注意:高価なもの、極端な精神療法は疑う、主治医に相談
詳しくは、後に示すような患者さんのために書かれた本を参考にしてください。
この病気を正しく理解し、病気に打ちひしがれることなく強く生きて欲しいと願っています。